ニューヨーカーの条件 第39回 ニューヨークは世界の縮図
2011年 02月 01日
最近は「サラダボウル」という表現が好まれているらしい。その理由としては、これは様々な人種が混在するという意味もあるが、一方で混在しつつも、溶け合うことなくそれぞれが自分たちの文化や個性を保ちつつ生きているということも表現しているからだ。
つまり、サラダボウルの中では、トマト、レタス、ブロッコリーなどが混ざり合うが、決して溶け合うことは無い。このイメージが、ニューヨークを表現するにはぴったりだという訳だ。
その証拠にニューヨークでは人種、それぞれの出身国によって住む地域がはっきりと分かれている。その境界線は恐ろしいほど顕著で、あの駅で降りるとインド人ばかりとか、あのストリートから向こうはプエルトリコ人、こっちはギリシャ人などと、日本人などが何も知らずにふらふらしていると変な目で見られたりもする。そしてそれぞれが、自分たちの風習、生活習慣を頑なに守って暮らしている。
各民族のコミュニティーは、それぞれの特技を生かして発達してきた。
・韓国人移民は英語が苦手だった。そのため、英語で説明しなくても新鮮なものを目で見て売れる八百屋/デリ(いわゆるコンビニ)を始めたことで成功を収めた。今では、マンハッタンの大半のデリは韓国人経営である。また手先の器用さを生かしてクリーニング屋やネイルサロンを経営している。
・中国人は中華レストランと漢方や東洋医学を生かしたマッサージ店。
・インド人はタクシードライバーで有名だが、意外と知られてないのがホテル(モーテル)やドーナッツ屋(ダンキンドーナッツ)、サンドイッチ屋(サブウェイ)などの全国展開しているフランチャイズのオーナーが多い。
・メキシコ人などのラテンアメリカ系の人々は、レストランのバスボーイ(皿洗い)やキッチン(調理補助)。彼らがいなくてはアメリカの台所は動かないといっても過言ではない。安い賃金で働いてくれている。
・ロシア人はサウナ経営や、肉体に自信があるのか土木工事や引越屋を請け負っている。
・その他、アイルランド人のバー経営やギリシャ人のダイナー経営等など。
では日本人はどうだろうか。
現在、ニューヨーク近郊には日本人は十万人程住んでいると言われている。世界で最大の邦人数を誇るが、ニューヨークにはロサンゼルスやサンフランシスコにあるようなリトルトーキョーなどの日本人街がない。
それはなぜか。
実はニューヨークへの日本人の移民の歴史は、他の民族に比べて浅いのだ。また、日本人にとってニューヨークは元々移住の地ではなく駐在員の街であったためか、土着したジャパンタウン的なものが成立していない。
しいて言えば、アメリカ人に浸透しているのは、日本食レストランと美容院だろうか。だが、日本は家電や車などのメーカー産業が売りになっているため、ニューヨークよりは広大な土地が余っている地方に偏りがちになってしまう。
しかし今、アメリカでは日本人パワーがかつてない勢いを持ち始めた。「日本食」や「アニメ」、「ゲーム」などの日本ブームで盛りあがっている。
そしてニューヨークには、以前と違って日系人でもなく駐在員でもない、私のように新しいタイプの長期滞在の日本人が多く在住し、日本食レストラン以外にも、ユニクロなどの洋服屋、無印良品などの小物屋などの小売店も増えてきている。
将来はニューヨークでの「ジャパンタウン」創出を願いたい。
ニューヨークとはこのように様々な文化が混在する街。長い歴史があり、一つの民族、一つの文化よりも、これらの多様で少し頑固な民族文化たちが織りなす、他に類を見ない独特のパワーがニューヨークの力の源泉ともいえるだろう。
日本に住む日本人がニューヨークに抱くイメージは、アメリカ人とアメリカの文化の中心地、スタイリッシュでスマートな白人に、ヒップホップやレゲェのうまいソウルフルな黒人たちと単純に考えがちだが、実は前述したような多様な文化の玉石混合。そのため、言ってみればアメリカで一番アメリカらしくない場所かもしれない。
「ニューヨークはアメリカじゃない。ニューヨークという国だ」とよく言われるのはこのためだ。だから、ニューヨークの事を語るとなると、必然的にアメリカ人以外の話題が沢山浮かんで来てしまう。矛盾しているようだがそれがニューヨークらしさでもあるのだ。
初出:月刊「アメリカン★ドリーム」2011年2月号
by amedorinewyork | 2011-02-01 02:42 | ニューヨーカーの条件