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ニューヨーカーの条件 
第32回 目にみえないものを信じる勇気


「空気や酸素は見えないですよね。大切なものは目に見えないのです。
命は目で見えない。でも持っていますよね」。

来年で100歳を迎える医師の日野原重明先生と、以前NYでお話して印象に残ったのがこの言葉だ。

日野原先生といえば、聖路加国際病院名誉院長であり、著書は250冊を数え、「生き方上手」は
大ベストセラーにもなった著名人である。

先生は、2度の歴史的な出来事に遭遇した。

まずは、よど号ハイジャック事件で4日間に渡り人質になった。

この時は、死を覚悟した。生きることの意味を考えたそうだ。それをきっかけに人生観が大きく変わったという。己の天命をかみしめ、生かされた命を誰かのために捧げると誓ったそうだ。

そして2度目に遭遇した事件とは、あの地下鉄サリン事件。

この時自分の誓いに従って行動し、次々と聖路加国際病院に担ぎ込まれる被害者たちの人命を救助した話は有名である。

日野原先生は全国の小学校をまわり、「いのちの授業」というものを行っている。

子供達に、「"いのち"はどこにありますか。心臓は命ではないですよ。さてどこにありますか」と問いかける。

「"いのち"とはあなたが使える時間のことです。いのちは見えないし、触れないし、感じられません。子供達に、時間は見える?って聞くんです。昨日も今日も見えないけれど、寝たり、勉強したり、遊んだりするのは、キミ達の持っている時間を使っているんだよ。時間を使っていることが、キミが生きている証拠。時間の中にいのちがある」と。

独特の語り口で命の尊さや命の意味を説いてくれた。

命とは、生きているというのは何かに使える時間があるということだと語る。命は時間であり、
それを何かに使う。それをどう使うのかは人それぞれだと。

私も目に見えないものの力を、あるときから感じるようになった。

9・11の倒産から数年後、やっと心身ともに回復してきた時に、大型クルーズに乗り、
カリブ海の真ん中で見た美しい夕日。

目の前にあるでっかい太陽が地平線へ落ちていく。

太陽は一体どこへ消えてしまうのか。もし、大海にこのクルーズが沈んでしまったらどうなってしまうのだろうか。

光り輝く海の上に静かに落ちていく夕日を見た時、大自然の中ではちっぽけな存在の自分を感じ、目に見えるものだけを信じることがとてもおろかなことに思えた。

この日以来、私は自然の中に生かされているのだと思った。目にみえないものを信じる。
その素直な気持ちが一番大切だ。

毎日の生活は容易ではない。やることなすことうまくいかずに、守られていないと感じる恐怖感がつのることがある。そういうときこそ必要なのが、目に見えないものを信じる勇気だと思う。

起こる事象をポジティブに受け入れ、その運命に従って、怖がらずに自分を信じて暗闇を進んでいくことが必要だ。

それが何の根拠がなくてもいい。直感を研ぎ澄まし、自分が感じたものを大切にし、それに従って行動してみると、解決不可能だと思えたことが急によい方向へと転じたりする。

私はそうやって、テロ、そして倒産という苦しさを乗り越えてきた。

「大切なものは目に見えない」と言った日野原先生も、勇気をもって行動していけば、だんだん結果がついてくると言っていた。

それこそが、先生が言う「目に見えない時間のなかにある命を大切にして生きる」ということではないだろうか。

それに従って将来を見据え、自分の目標をコミットメントすることが大切だ。

先生は、10年間の予定表を作り、誓約書をつくるべきだと提言してくれた。

「やることがたくさんありすぎてなかなか死ねないですね」と語っていたのが印象的だった。

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初出:月刊「アメリカン★ドリーム」 2010年7月1日号

板越ジョージ 経歴Wiki

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by amedorinewyork | 2010-07-03 12:56 | ニューヨーカーの条件

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